ズズッとすする粋な一杯​ オオサカ蕎麦マニア ズズッとすする粋な一杯​ オオサカ蕎麦マニア

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公開日2025.12.10

紹介してくれるマニアさん

蕎麦研究家、日本蕎麦保存会会長片山虎之介(かたやまとらのすけ)さん

雑誌の仕事で特集企画のテーマとして蕎麦を取り上げ、​​それをきっかけに蕎麦の魅力に心を奪われた。30年以上にわたり蕎麦を食べ歩き、研究を続けている。東京で開催する蕎麦打ち教室「蕎麦のソムリエ講座」には、日本ばかりでなく世界中から受講生が集まる。蕎麦鑑定士や蕎麦のソムリエといった、資格認定も行なっていて、受講生は数千人にのぼる。現在は、福井県​​の​​​越前市、新潟県の十日町市​など、蕎麦処のプロデュースを行なっている。今後の目標は「大阪を日本一の蕎麦処にすること」。著書多数。Webサイト「日本蕎麦保存会​jp​」などを運営。

実は大阪が本場!地下鉄がつなぐ蕎麦文化

大阪に生きる人々の暮らしを、ていねいに繋いで走る地下鉄の周辺には、愛すべき蕎麦屋が数多くあります。そういえば蕎麦も、人と人とを繋ぐ食べ物です。暮らしに寄り添い、支えてくれる地下鉄と蕎麦には、どこか似通った親近感を覚えます。蕎麦といえば江戸と思われがちですが、実は江戸蕎麦の源流をたどると、大阪に行き着くのです。江戸蕎麦の老舗暖簾は「藪」「更科」「砂場」が代表格ですが、この中で最も古い暖簾が「砂場」です。天正11年(1583)年に豊臣秀吉が大阪城築城を開始しましたが、その建築資材である砂などの置き場は「砂場」と呼ばれました。ここにできた蕎麦屋が通称「砂場」と呼ばれ、慶長8年(1603)年、江戸開府の後に江戸の町に進出して、現在の老舗暖簾である江戸の「砂場」の源流になったのです。
大阪には今でも「夕霧そば」のように温かくて柔らかな、他ではほとんど見られなくなった蕎麦の文化が生き残っています。また大阪には「こんな蕎麦は邪道だ」などという縛りもないため、蕎麦好きを楽しませてくれる様々なメニューが、季節が変わるごとに登場します。繰り返し通いたくなる魅力的な蕎麦屋がひしめいている、大阪、地下鉄周辺の蕎麦屋を、ぜひ食べ歩いて、楽しんでください。

目次

変わり蕎麦が一年中楽しめる、伝統と趣の隠れ家蕎麦屋

柚子の香りが広がる 名物「夕霧そば」

たくさんの人で賑わう曽根崎お初天神通りのほど近く、静かな路地にあるのは1952年創業の老舗「瓢亭」です。店前には「ここ瓢亭」と書かれた石碑がお出迎え。かつては建具屋だったという昔ながらの店舗は、のれんをくぐると出汁のいい香りが漂います。
この店の名物「夕霧そば」(1,550円)は、細かくおろした柚子の上皮が練り込まれた蕎麦。
およそ60年前、品評会にこの蕎麦を出したところ高く評価され、お初天神にもゆかりの深い近松門左衛門 作「廓文章」に登場する夕霧太夫にちなんで「夕霧そば」と銘名されました。
柚子は毎年、徳島や高知などから一年分を入荷し、それらを手作業でペーストに加工。柚子の白い部分には苦味があるため、人の手で丁寧に上皮だけをすりおろしていきます。柚子の入った蕎麦は一般的に「柚子切り」と呼ばれ、季節商品として提供する店がほとんどの中、「通年で出す店は、うちくらいかもしれませんね」と語る副店長の立石さん。蕎麦を一口すすると柚子の香りが鼻に抜け、さわやかな風味が口に広がります。粉の割合でいうと柚子は3~4割もの量が練り込まれているそう。蕎麦つゆは鰹節、宗田節、鯖節で出汁を取り、砂糖が多めの少し甘い味付けです。
もう一つの名物「お初そば」(1,400円)は、梅肉としそ酢が練り込まれた梅切り蕎麦です。
瓢亭の蕎麦粉は、信州や北海道から直送している更科粉 (蕎麦の実の中心の粉)を使用。職人が毎日手打ちで仕込んでいます。ほんのりピンク色をした蕎麦が「曽根崎心中」のお初の名にふさわしいと、その名前がつきました。さわやかな梅の香りと、まろやかな千切りの山芋の中に大葉と針しょうががさっぱりとした風味を一層引き立てます。創業30周年にこの蕎麦が考案された時、女性客に喜んでもらえるようにと、梅酒の食前酒が一緒に配されるようになりました。蕎麦つゆにも梅が入っていて、ほどよい酸味が食欲を増してくれます。
洋皿がめずらしい「カレーそば」(1,300円)は、厳選された2種類の蕎麦粉をブレンドした「黒そば」の上に出汁の効いたカレーがかかっています。深皿ではなく洋皿の理由は諸説あるそうですが、「熱々のカレー餡がかかっても蕎麦が伸びにくい」「皿が広くて食べやすい」などのメリットがあるようです。カレー餡は、後からピリッと感じるくらいの辛さがこだわりポイント。福神漬けで味変も。
「づけ玉子」(650円)は、自家製の「ゆずみそ」に、蕎麦つゆに漬け込んだ味玉を合わせた一品。ゆずみそは「夕霧そば」にも使われる柚子の粉末を、独自でブレンドしたみそとあわせたもので、店舗では購入も可能です。ゆずみそには砕いた蕎麦の実が入っていて、香ばしさと食感にアクセントがプラスされています。蕎麦の箸休めとしてはもちろん、お酒のアテにもぴったりです。
★マニアさんのおすすめポイント★
看板メニューは、色の白い蕎麦粉である更科粉 に擦りおろした柚子の表皮を練り込んだ「夕霧そば」です。この蕎麦は、寛永20(1643)年に刊行された当時の日常食についての料理本「料理物語」に作り方が書かれているような、昔ながらの温かくて柔らかい蕎麦です。日本の蕎麦食文化を象徴する一枚とも言える「夕霧そば」ですが、このように優雅な蕎麦の伝統は、ここ大阪『瓢亭』でしか味わえないといっても過言ではありません。
[soba_01]店舗情報

落ち着いた雰囲気の中でいただく自家製粉の手打ち蕎麦

こだわり満載!地域に愛される老舗蕎麦

1930年創業の老舗「なにわ翁」。かつて大阪天満宮の参道として賑わいを見せた西天満の地で、地域に愛される店として歴史を刻んできました。
3代目の勘田さんは山梨の名人のもとで修行し、この店を継ぎました。名人の味を再現したいという思いを胸に、毎日蕎麦を打っています。
蕎麦の実は、全国の産地に足を運び、香り高い国産のみを厳選。その日にお出しする分だけを店舗2階にある蟻巣石の石臼で自家製粉しています。蟻巣石はその名の通り、蟻が這ったような小さな穴がたくさん空いていて、熱を持ちにくいという性質があります。そのため蕎麦が傷みにくく、蕎麦本来の香りと深みを引き出してくれるというのが特徴です。
看板メニューは、二八 の「ざるそば」(1,100円)です。つゆは修行先で学んだ関東風。さわやかに感じるキレの良さの秘密は、かえし(つゆのベースとなる調味料)に入っているワインビネガーとのこと。つゆに使う出汁には、カビをつけて2年以上の本枯節のみを使用しています。店で削るので香りが良く、鰹の味わいを強く感じられます。辛みだけでなくうまみも重視したバランスの良いつゆです。
蕎麦打ちや、つゆ に使用する水は、大阪天満宮の御神水を頂戴しているのだそう。「大坂四清水の一つ」と賞された天満天神の水は、天然の地下水で雑味がなく、蕎麦の香りと出汁の深みを支えています。
澄んだつゆが美しい「かけそば」(1,000円)は、出汁と蕎麦のおいしさを直に味わえる一杯です。こちらの出汁は関西風で、使用するのは本鰹、うるめいわし、鯖、めじかの4種類。素材も製法も、創業より代々受け継がれてきた店自慢の味です。まずはストレートに蕎麦と出汁を楽しんだあと、別添えの薬味ねぎや柚子で風味に変化をつけてお楽しみください。
さっぱりとしたい気分の時は「辛味大根おろしそば」(1,300円)がぴったりです。
香川県の農家から取り寄せている辛味大根は、カッときてサッと引く爽快な辛さと清涼感が味わえます。しかも、ただ辛いだけでなく、奥行きのある味と香りが特徴。蕎麦とつゆ、そして大根の香りが複雑に絡み合って、口の中にさわやかに広がります。
同店オリジナルメニューの「そばの実と煮玉子」(550円)は、自家製粉の蕎麦屋ならではの一品です。毎日店で殻を剥く蕎麦の実は、鮮度の良い鮮やかな緑色。下茹でした蕎麦のむき実を、注文が入ってからかけそばの出汁でサッと炊き、ざるそばのつゆで漬け込んでおいた煮玉子と合わせた一品。蕎麦の実は噛めば噛むほど甘く、特有のぬめりがクセになる味わい。スプーンで煮玉子を崩しながら、蕎麦の実と絡めてお召し上がりください。お酒のお供としても人気です。
老舗ならではのぬくもりを感じる店内で、おいしい蕎麦とゆったりとした時間をどうぞ。
※小麦粉2割、蕎麦粉8割で作られた蕎麦を「二八(そば)」、蕎麦粉10割(100%)で作られた蕎麦を「十割(そば)」と呼びます。
★マニアさんのおすすめポイント★
この店が好きな理由は、白魚や白子、牡蠣、鯛の刺身、鱧や鮎などを生かした、ある意味常識外れのメニューに挑戦し続ける気概があるからです。季節により、これらのメニューが入れ替わり立ち替わり登場して、蕎麦好きを楽しませてくれます。癖がなく、上品なもり蕎麦と並んで供される蕎麦つゆは、濃口醤油をベースにしていながら重すぎない、バランスの良い味わいです。
[soba_02]店舗情報

住宅街にたたずむ、あたたかな木のぬくもり感じる江戸前蕎麦の店

店主の手打ち蕎麦と、奥様の柿の葉寿司

「蕎麦切 いもせ」は住宅街の中にある、昔ながらの佇まいを演出したお店です。店内に入ると、まず囲炉裏が目に入ります。
一見古民家のようにも見えますが、実は2006年の開店時にビルの一階を改装した「古民家風」のお店。店主の大西さんが「高級な和の雰囲気ではなく、田舎風のお店にしたかった」と語るように、あたたかな木のぬくもりを感じる店内は、田舎に帰ってきた時のような安心感があります。
お店のメインは3種類の蕎麦。蕎麦の実だけの二八の「せいろ」と、蕎麦の甘皮が入った二八の「田舎」、石臼自家挽きの「十割」です。十割は、店内奥の製麺室にある石臼で店主自ら挽いています。
オーソドックスな「せいろ」(900円)は、喉越しの良さが特徴。
卓上にある塩をお好みで少しかけて、まずは蕎麦の風味を感じてみてください。蕎麦と一緒に出てくる蕎麦つゆは江戸前風で、塩味が強めに作られています。薬味は本わさびと薄く切った白ねぎ。季節によって変わることもありますが、多くは伊豆のわさびを使用しており、香りが飛ばないように注文が入ってからすりおろします。
せいろの中で人気の「鴨せいろ」(1,900円)は、冷たい蕎麦をあたたかい鴨汁につけていただきます。朝締めの京鴨は炊き込むと固くなるため、さっと火を通して風味と柔らかさをキープ。濃いめに仕上げた鴨汁には、鴨の脂が溶け込み、ガツンとした旨味を感じます。炙りねぎが香ばしさをプラスし、しつこさを感じずに最後までおいしい一品です。
美しい盛り付けが目を引く「妹山そば」(1,200円)は、あたたかいつゆを張った蕎麦に、泡立てた卵白と長いものとろろ、卵黄、刻みのり、あおさのりをトッピング。ふわふわのとろろと卵白が、より一層蕎麦の喉越しを良くしてくれます。あたたかいつゆは関西風であるものの、蕎麦に塩分が入っていない分、こちらも少し塩味を強くしているそう。昆布をベースに、鯖、うるめ、鰹で出汁を引き、うすくち醤油と白醤油で透明感のあるつゆに仕上げています。
忘れずに食べてほしいのが、奥様が作る「柿の葉寿司」(2個300円、3個450円)です。店名の「いもせ」は店主のふるさとである和歌山の地名が由来。奈良から和歌山に流れる紀の川周辺は柿の葉寿司が名物で、奥様が田舎のおばあちゃんから教わった味を大事に受け継いでいるそう。酸味が強い奈良風に対し、いもせの柿の葉寿司は甘い和歌山風の味付けです。
店主が毎日一人で打っている蕎麦は、こだわりを持って丁寧に作り込む分、数に限りがあります。柿の葉寿司も当日分しか作れないので、予約時に確認するのがベストです。
★マニアさんのおすすめポイント★
品書きに、せいろ、田舎、十割と、三種類の麺がありますが、毎日、この三種類を手打ちするところに、この店の、「美味しい蕎麦を食べて欲しい」という強い思いがうかがえます。癖のない優しい蕎麦は、毎日食べても飽きない味。濃口醤油を使った関東風の辛汁(冷たい蕎麦の汁)と、淡口醤油を生かした関西風の甘汁(温かい蕎麦の汁)を作り分けているので、どのメニューを食べても満足できます。
[soba_03]店舗情報

契約農家から仕入れて打つ蕎麦と、締めにも人気のあと引くつゆ

完璧なバランスを極める西梅田の名店

多くの飲食店が立ち並ぶ一角に店を構えるのは、「そば處 とき」です。一歩店内に足を踏み入れると、テーブルはもちろん、床や複雑な模様の網代天井までがピカピカに磨き上げられて輝いています。
「蕎麦もお店も、すべてのバランスが整った状態を目指しています。」そう語る店主の森さんは、このお店の4代目です。
同店の蕎麦に使われている蕎麦粉は、蕎麦農家から直接仕入れた玄蕎麦を挽いたもの。毎日、店の2階にある石臼で玄蕎麦を挽いていて、挽きたての蕎麦粉を使うことで香りが良く、ねばりやコシの強い蕎麦に仕上がります。年間契約を結んでいる北海道・音威子府(おといねっぷ)の蕎麦農家は、店主自ら全国を探して見つけたのだとか。肥料や実を刈り取る機械にまでこだわっていている農家で、そこから仕入れた玄蕎麦を使うと、店主にとって一番理想の蕎麦が打てるといいます。そんな同店の蕎麦の魅力を存分に味わいたいなら、喉越しの良さをダイレクトに感じられる定番人気の「二八蕎麦」(1,500円)がおすすめです。
また蕎麦つゆは、3年以上熟成させた鰹節をメインに、鯖、鮪の出汁と、3~6か月もの間寝かせたかえしを使っています。季節によって期間を調整しながら熟成させることで、醤油の角が取れ、口当たりがまろやかになるのだとか。
店主が「関西では珍しいかも」という「くるみ蕎麦」(1,800円)は、長野県が発祥とされるメニュー。
「くるみ蕎麦」では、すりこぎを使ってくるみを潰すことが店主のこだわり。そうすることで繊維が壊れず、くるみの香ばしい香りとコクが引き立ちます。こちらのお店では、くるみにみそ、ごまなどを合わせてペースト状にしたものを蕎麦つゆで割り、冷たい十割蕎麦をつけていただきます。おすすめは、少な目のつゆに多めのくるみペーストという配合。野趣に富んだ十割蕎麦の風味と、くるみのコクが口いっぱいに広がります。仕入れ状況によりメニューにない場合もありますので、事前にご確認ください。
人気メニューの「天麩羅蕎麦」(3,000円)は、蕎麦と天ぷらが別皿で提供されます。天ぷらはえびと季節の野菜がメイン。その中でも店主一番のおすすめは、ていねいな下処理で臭みを完全に抜いたえびです。衣を厚めにまとわせることで、えびの風味を含んだ衣が温かいつゆに溶け、蕎麦と合わさりより豊かな味わいを楽しめます。
厚焼きの卵焼きが目を引く「巻き寿し」(1,800円)は、これを目当てにやってくる人も多い人気メニュー。
嬉しいことに、ランチタイム限定ですべての蕎麦に半量(4切れ)がセットになります。シャリの中に入っているのは、卵、いか、うなぎ、三つ葉、山椒、しいたけとかんぴょうのペーストと、とても具沢山。一口頬張ると、山椒の香りがふわっと鼻に抜け、具材それぞれの食感やうまみが口に広がります。厳選した具材とお米を使用することで時間が経ってもおいしくいただけ、お土産としても人気の一品です。
土地柄、お酒を飲んだ後に来られる方も多いそう。出汁と醤油のバランスが絶妙で、あとを引くつゆが人気の理由とのこと。昼と夜、どちらも楽しめる名店です。
★マニアさんのおすすめポイント★
北海道産の中で、特に美味しい蕎麦粉を使っているのがこの店です。最北端の蕎麦産地と呼ばれる音威子府(おといねっぷ)の最高レベルの蕎麦を、店主が毎日手打ちします。秋蕎麦に比べて繋がりにくい夏蕎麦の生粉打ちを、大量に十割で打つ。並外れた腕前です。麺の個性をしっかり受け止める、濃厚で切れの良いつゆにも脱帽。この蕎麦と蕎麦つゆを求めて、常連客を中心に、目を輝かせた蕎麦通たちが集まります。
[soba_04]店舗情報

何度も通いたくなる、古民家でいただく本格手打ち蕎麦

蕎麦本来の味が楽しめる文の里の名店

静かな住宅街にある「そば切り 鴨嘴」は、築90年を超える古民家を改装した本格手打ち蕎麦のお店です。
店内は玄関で靴を脱いで上がる座敷スタイルで、昔懐かしい雰囲気の、ほっとする空間が広がっています。こちらでいただけるのは、蕎麦本来の味を感じられる十割蕎麦です。
太さにインパクトのある「粗挽きせいろ」(半量 900円)は、店主が石臼で手挽きした、超粗挽きの太切り蕎麦です。見ると、太い麺の中に白い蕎麦の実がごろっと練り込まれているのがわかります。「蕎麦の実そのものを味わう蕎麦」というメニュー書き通り、噛むほどに蕎麦本来の味が広がります。日本酒との相性が良く、お酒のアテに頼まれる方も多いのだとか。
人気の「お薬味せいろ 野菜天三種」(2,000円)は、絹挽きの蕎麦と季節の野菜天が楽しめる一品。絹挽きとは、蕎麦の実の黒い外皮を取り除いて石臼で挽いた、喉越しの良さと上品な甘みが特徴の蕎麦です。わさび、梅、辛味大根、茎わさびの醤油漬け、ねぎ、この5種類の薬味を、順番に蕎麦に合わせていただきます。薬味は少し残しておいて、蕎麦湯と一緒につゆに入れるというのも、通な蕎麦の楽しみ方なのだそう。塩でいただく天ぷらは、さくっと揚げられていて、蕎麦との相性も抜群です。
平打ちがめずらしい同店の「けし切り」(1,700円)は、生卵を溶いて温つゆを注ぎ、そこに蕎麦をつけていただきます。けし切りは、蕎麦に食材を練り込んで色や風味を楽しむ変わり蕎麦の一種。本来、変わり蕎麦には更科粉を使用するのが一般的ですが、こちらのお店で使われているのは、丸抜き(黒い殻をむいた蕎麦の実)を挽き込んだ蕎麦粉です。そんな蕎麦粉と芥子の実が合わさることで香りがより豊かになり、香ばしさ、甘さも強くなるのだそう。気分を変えたい時は、セットで付いてくる蕎麦の実のあられと、茎わさびの醤油漬けをつゆに入れてお召し上がりください。
黄金色のごまがまぶされた「涙巻き」(600円)は、店主自慢の茎わさびの醤油漬けが入った巻き寿司です。一口食べると、パリッとしたのりと、シャキシャキの茎わさびの歯ごたえが心地よく、わさびのさわやかな辛みが鼻を抜けます。ごまの香ばしさがアクセントになり、クセになるおいしさ。蕎麦のお供にうってつけの一品です。
古民家ならではの温かみのある空間で、香り高く風味豊かな蕎麦をお楽しみください。
★マニアさんのおすすめポイント★
手挽きの粗挽き蕎麦から、繊細な変わり蕎麦まで、様々な蕎麦の表情が楽しめる店です。蕎麦周辺のメニューも多彩で、蕎麦の魅力を引き立てています。幅広いメニューが提供できるということは、技量も優れ、お客さまを喜ばせたいという、ご主人の意気も盛んな証拠。落ち着いた古民家で、蕎麦の味や食感に集中して味わっていると、まるでご主人と一対一で、蕎麦談義をしているような、ほっこり温かい気持ちにさせられます。
[soba_05]店舗情報
【編集後記】
今回の取材では、店ごとに異なる魅力にたくさん出会いました。十割や二八、変わり蕎麦など、それぞれに店主の思いや工夫を感じるものばかりでした。打ち方やつゆのつくり方にも、それぞれの流儀が光ります。取材のたびに感動したのは、お店の方の蕎麦づくりに向き合うまっすぐな姿勢。手間や時間を惜しまない姿に、蕎麦にかける情熱を感じました。気になるお店を見つけたら、ぜひ味わいに出かけてみてください。
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