超ローカルランドスケープ! オオサカ路線バスマニア 超ローカルランドスケープ! オオサカ路線バスマニア

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公開日2022.11.10

紹介してくれるマニアさん

龍谷大学 文学部歴史学科日本史学専攻 教授井上 学さん

専門は交通地理学・観光学。バス交通の歴史やネットワーク、 公共交通の利便性向上、利用促進などを研究。鉄道やバスに乗ることが大好きで、大学生時代には、京都から下関まで路線バス乗り継ぎの旅を実行。

大阪にしかない街並みをゆったり眺める旅へ

路線バスは、鉄道が通らない街に住む人々の暮らしを守る公共交通機関。その魅力は鉄道をはじめとした乗り物と比べて、ゆったりと外の様子を眺められることでしょう。大阪には、飲食店が集積する京橋や、農村をはじめ古くから立地していた集落の様子が残る平野など...大都市としてのオフィス街や高層ビルのほか、住宅地や工業地帯、湾岸機能、歴史的建造物など多彩な景観が広がっています。そんな多様な大阪の街並みは、まるで生き物のよう。バスから見えるそれぞれの建物や施設、駅などには、必ずそこに存在する理由があります。古い地図を携えながら、「なぜ、目の前の景観が生まれたのか?」「なぜ、こんな道をバスが通るのか?」と歴史的・地理的な背景に想いを馳せるのも一興です。また、バスに乗る人たちを観察すると、地域の暮らしやそこにバスが走る理由まで見えてきます。バスは、街を知る・理解する・学ぶにぴったりの乗り物。バスの車窓から見える景観には、あなたがまだ知らない大阪の魅力がギュッと詰まっているはずです。

「こんなとこ通るん⁉」と思わずツッコミたくなる路線も

今回は約100系統もある「大阪シティバス」の路線の中から、大阪らしい景観や観光地を巡る系統に加えて、バスが通るとは思えないような場所を走るユニークな路線もチョイス!「車体すれすれやん」と思わずツッコんでしまう細道をはじめ、高さ制限があったり、勾配があったり、陸橋を通ったり...と、道のり自体を楽しめるのも路線バスならではの魅力です。これらの激ムズルートを、涼しげな顔で運転するドライバーさんのハンドル捌きを見ていると、つい惚れ惚れしちゃいます。

目的地のない、ぶらり途中下車の旅を満喫しよう

紹介するバス路線の中には、1日に数本しか走らないバス路線も。そんな時々の出会いも楽しみながら、車窓から見える景観をボーッと眺めていると、気になる街の姿が目に留まるはず。そんな時は、ぜひ途中で降りて周辺エリアを探索してみてください。昔ながらのレトロな商店街や喫茶店、定食屋に街中華など、インターネットでは見つけられないあなただけが見つけた街の魅力が発見できるかもしれません。一日乗車券でバスを乗り継いで、あえて目的地のない大阪巡りの旅を満喫する休日も、悪くない気がしませんか?
目次

バスから眺める大阪の定番観光地【62号系統】

微妙な高低差も楽しめる上町台地縦断ツアーへ!

「大阪城大手前」停留所付近ではバスの車窓から大阪城が見える。
路線バスでありながら、大阪観光が楽しめる62号系統。まずは大阪の中心地・梅田から、オフィスビルやレトロ建築が楽しめる淀屋橋へ。そこから、川沿いの景観に癒される天満橋を通過して、史跡にも認定されている「大阪城」や「難波宮跡地」など歴史的建造物も車窓からご覧あれ。オフィス街のビル群が続くなか、急にぽっかりと空が広がる区画もあり、1つの街が持つコントラストを味わえるのも面白い。
「上本町六丁目[北]」停留所。周辺エリア特有の台地の高低差に着目してみて!
また、大阪城周辺から南へ広がる上町台地を縦断するのも、見所の一つ。目を凝らして遠くを眺めてみると、台地ならではの緩やかな傾斜が読み取れるはず。ただ、さすがはプロのなせる技。揺れを感じさせないドライビングテクニックで快適なバス旅が楽しめます。さらに南へ進むと、上本町へ。最近はさらに開発が進み、タワーマンションが増えている印象です。ファミリー層が増えた影響か、時間帯によっては大勢の子どもたちが乗り合わせ、まるでスクールバスに乗っているかと錯覚するほど。バス内をカラフルな色に染めるランドセル、元気な声と笑顔に包まれて、自然と幸せな気分に包まれます。
「上本町一丁目[南]」停留所付近から少し南に下ると「空堀商店街」の入り口が。
62号系統は、このまま天王寺を経由して住吉車庫に向かいますが、道中にある「上本町一丁目」停留所で降りて、谷町六丁目を散策するのがおすすめ! ぶらり途中下車して向かうべきは、少し南に下れば入り口が見えてくるホットスポット「空堀商店街」。気ままに歩けば、古民家をリノベーションしたカフェやパティスリー、アパレルなどがずらりと並びます。都会も良いけど、たまには下町の落ち着いた雰囲気の中で、ゆったりとグルメやショッピングを満喫してみてはいかが?

★マニアさんのおすすめポイント★
これぞ“ザ・大阪”な定番の観光地を巡る路線バスツアーを楽しんでください!
[rosen-bus_01]店舗情報

海を渡る激レア路線【72号系統】

大正と築港をつなぐ陸橋から大阪の街を一望

「なみはや大橋」の頂上からは大阪湾を一望できる。
大阪が誇る港町・大正にある鶴町四丁目から天保山をつなぐ72号系統。複数の埋立地が点在する大阪湾を、海を超えて横断⁉ 移動手段におけるバスの自由度の高さを体感できる路線です。道中にある陸橋「なみはや大橋」は、ビル15階建てに相当し、その高さなんと47m! 車窓からは大阪湾をはじめ大阪の街並みを一望でき、誰もがうっとりしてしまうはず。フォトスポットとしても人気のため、キレイに写真が撮れた時は小さくガッツポーズを。また、アクセルをベタ踏みしないと登れないのでは…と思わせる急勾配も圧巻。まさにジェットコースターのような浮遊感を体験できるので、クセになってしまうかも。
観光名所の海遊館すぐそばに位置する「天保山」停留所。
かつてニュータウン化が進み、一時は住むことがステータスとされた天保山エリアにもご注目。今でも昔に建てられた社宅を中心に、多くの住宅街が点在しています。ただ、その歴史は古く、実は幕末時代から存在していたとか。江戸時代に埋め立てられてから、外交の重要拠点である港町として発展。海外から資源を輸入しながら工業も盛んになっていきました。流通・交通網が敷かれた名残は現在にも見られ、今なお各地から埋立地をつなぐように渡船が行き交っています。貿易・工業地帯として、はたまた観光地としてもニーズがあり、利用者が見込まれることから、1995年に船以外の交通手段として「なみはや大橋」が架けられたのです。
大阪シティバスが設置する7営業所の一つ「鶴町営業所」にバスが整列。
海風が心地よい天保山エリアといえば、海遊館や天保山ハーバービレッジもあるのでお出かけにもぴったり! ずらりと並ぶ赤レンガのレトロ建築を眺めているだけで気分は最高潮に。天保山からはUSJ行きの渡船も出ているので、あえてバスと渡船でUSJを目指すルートもおすすめです。また、始点から終点まで約15分で到着するため、なみはや大橋の絶景だけ楽しみたい方も気軽に利用できます。時間の違いにより、夕陽やライトアップされた夜景も楽しめるので、あなたの好きな大阪の街並みを車窓から覗いてみて。

★マニアさんのおすすめポイント★
「なみはや大橋」から広がる大阪の街並みは絶景!急勾配を昇り降りするスリルも体験必至です。
[rosen-bus_02]店舗情報

思わずツッコミたくなる路線【12号系統】

大阪イチの細道!壁すれすれをバスが颯爽と駆け抜ける

大阪イチの細道を通る12号系統。「え、こんな細い道通れるの⁉」と思わずツッコミを入れてしまいそう。
アンバサダーの井上先生が「大阪屈指の細い道を通る路線バス」と認めた12号系統。見所はやはり、「小路東二丁目」停留所から「小路東五丁目」停留所の間にあるその細道です。実際に通ろうとすれば、車体は壁すれすれを通り、もはやひと1人が横に並べるかどうか。自転車とすれ違うときは、スピードを緩めたり、ストップしたりしながら、ゆったりと運行します。古い民家が多く風情豊かな小路エリアを思う存分眺められる至福の時間は、まさにバスでしか味わえない下町ツアーのよう。普通車でも運転するのが難しい道を、颯爽と駆け抜けるさまは、さすがプロのドライバーさん!と見入ってしまいます。
安全確保のために道路に刻まれた「バス運行」の文字。
一通方向のこの道路には、車の駐停車を防ぎ交通の安全を保つために「バス運行」の文字も刻まれています。「そこまでするなら、道を変えれば良いのでは?」と思った方もいるはず。しかし、道が細いということは、多くの家屋が立ち並び、たくさんの暮らしがそこにあるということ。市民の暮らしを維持するためにも、安易にルートは変えられません。元は1900年代初頭に賑わいをみせた「北尾街道」の一部だったこの細道。途中には何とも珍しい六差路の交差点もあるので、ぜひチェックを!
なかなかお目にかかれない六差路の交差点。多数の信号機を注視しながら渡るべし。
12号系統のルートは天王寺から小路まで。どうにも鉄道だけではアクセスが難しい土地をつなぎ、多くの人々の暮らしを守る路線です。なかでも小路エリアは、下町情緒溢れる街並みが魅力。巡り歩いているだけで、古き良き日本にタイムスリップしたかのような雰囲気を演出してくれます。今までじっくりと見つめたことがない風景を横目に、懐かしい時代に想いを馳せながらバス旅へ繰り出してみませんか?

★マニアさんのおすすめポイント★
「え、こんなところ通れるの⁉」と思わずツッコんでしまう細道に驚くなかれ。
[rosen-bus_03]店舗情報

路線バスのパワーを体感【34号系統】

トップクラスの利用者数と本数を誇る路線

いつも大勢の人々が並ぶ地下鉄梅田駅すぐの停留所。
守口車庫前から、毛馬橋を経由して、梅田へ向かう34号系統。このエリアは、各鉄道が大阪を縦断するのに対して、バスが横断しているため、多くの人が今なおバスを主な交通手段として利用しています。特に、朝と夜の通勤時にはビジネスパーソンがずらりと立ち並び、大阪の路線バスの中でも利用者数はトップクラス! もはや1台に収まらないほどの人数が停留所に並ぶシーンも。その光景を目にするだけで、いかにバスが多くの人々の暮らしを支えているのかを理解できます。
びっしりと羅列された数字が本数の多さを物語る。
また、電車の本数よりバスの本数の方が多い点も、34号系統の特徴です。午前8時台には約2分に1本のペースで、バスが停留所にやって来ては出て行き、どの便にも忙しなく乗り込む大勢の乗客の流れに圧倒されます。実際に乗ってみると、各停留所の間隔が短いため、連続して「次、停まります」のアナウンスが流れてきます。何度も耳にするせいか、目的地が近付いてくると、つい早押し感覚で“とまります”ボタンを押したくなりますよ。
ターミナル機能を持つ「大阪駅前」停留所では、各系統の路線バスを一挙に眺められる。
沿線には、赤レンガの景観や戦争時代の遺構がフォトスポットとして人気の「毛馬桜之宮公園」も! https://www.osakapark.osgf.or.jp/kema_sakuranomiya/大阪の中心地・梅田から、バスに約10分揺られるだけで、自然溢れるお出かけスポットへ行けるのがありがたい。梅田でショッピングやランチを楽しんだ後のお散歩コースに、ぜひ立ち寄ってみてください。

★マニアさんのおすすめポイント★
大阪トップクラスの利用者数を誇る34号系統で、路線バスのパワーを体感!
[rosen-bus_04]店舗情報

市電から路線バスへの移ろい【29号系統】

市電時代の名残あるノスタルジック路線

もともとあった大阪市電(路面電車)のルートを踏襲する29号系統。
かつては大阪市電が通っていたルート上をバスがトレースする珍しい路線。さらに、市電時代に使われていた系統番号を、そのまま今に受け継いでいるのは大阪で29号系統のみ。なんばを起点に、西は桜川を経由して、鉄道がない道筋を真っ直ぐ南へ下り、住之江公園まで路線が続いています。住之江公園で89号系統に乗り継げば、大阪市の路線バスなのに大阪市外へ⁉鉄道を使わずとも、堺市の中心地まで移動できる珍しい路線バスです。市電時代の地図を片手に街並みを眺めながら、変化の背景を想像するのも一興。自然とノスタルジックな気分に浸れますよ。
「鶴見橋通」と「津守神社前」の停留所間には、市電時代に造られた陸橋が残っている。
道中の「鶴見橋通」停留所と「津守神社前」停留所の間では、市電時代の遺構を発見!市電を走らせるために造られた陸橋です。陸橋の南北に土手が続き、その横をバスが走り抜けていくさまがかっこいい。よく目を凝らすと土手の一部には、市電に電気を流すために設置された電柱の跡も。鉄道、市電、路線バス、地下鉄など大阪の交通ネットワークがいかにして変遷を遂げてきたのか、この路線1本でよく理解できます。
陸橋の一部には、市電を走らせるために設置された電柱の跡も。
29号系統が走る木津川周辺の街並みにも注目を。中心街ではないけど、郊外というわけでもなく、変わるがわる景色が移ろいながらゆったりとした空気が流れています。人がそこで暮らしていると、ごく当たり前の日常が垣間見えるような感覚。そこには、昔から変わらない姿であり続け、街の人々から愛され続けてきた商店街や個人商店が並んでいます。有名グルメも良いけれど、自分だけの名店を探す食べ歩きツアーへ出かけてみるのも楽しそうな予感!

★マニアさんのおすすめポイント★
大阪市電時代のルートと系統番号を踏襲した大阪で唯一の路線バスです。
[rosen-bus_05]店舗情報
【編集後記】
大人になると、「新しい趣味を始めたい」と思うことありませんか? でも、一人でぼ〜っと「何が好きだっけ?」と考えても、ネットで検索しても、良いアイデアは出てこない…。
そんな時は、幼少期を過ごした地元や学校からの通学路、よく遊びに行ったエリアなど、過去の記憶を巡るバス旅へ。
誰かの家の表札 まで見える近さで、ゆったりと車窓からの景観を眺めていると、勝手に五感が働き出して、あなたの中に眠る楽しかった体験や“好き”を引っ張り出してくれるはず。
それに、懐かしい景観を見ているだけでも、日常にはない感情を味わえますよ。今回紹介した系統のバスは、「最寄り駅」に記載してある駅付近にバス停があります。
是非気になる系統をチェックして、さあ、大阪にある自分らしい“好き”を再発見するバスの旅へ出かけよう!
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