公開日2021.06.10
紹介してくれるマニアさん
建築史家倉方俊輔さん
大阪公立大学教授/日本近現代の建築史の研究とともに、建築公開イベント「イケフェス大阪」など建築の価値を社会に広く伝える活動を行っている。『神戸・大阪・京都レトロ建築さんぽ』をはじめ著書多数。
レトロ&モダン2つの顔持つ近代建築史の要
明治から大正時代にかけては、建築にレンガが多く使われていました。それはレンガが頑丈で燃えない素材であるからだけでなく、西洋的なデザインを目指した文明開化以降の動きとも合っていたからです。ただし、1923年(大正12年)の関東大震災は、レンガ建築を地震に強くすることよりも、この頃に使われ始めた鉄筋コンクリートで建築を造ることを選ばせています。日本では一時期だけに見られるレンガ建築。だから、貴重なのです。そのなかで大阪は商いの中心地として、さらには水都・軍都として栄えました。そのため、大きなレンガ建築や意匠性に優れたものが残されています。ユニークな存在だから印象に残り、インパクトも抜群!当時は“モダン”だとして脚光を浴びたレンガ建築も、現代では“レトロ”なものとして再び注目され、新たなフォトスポットとしても話題になっています。見た目の楽しさはもちろん、歴史や文化に想いを馳せれば、その魅力をより感じとれるはず。
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目次
「デザイン」も「機能」も大事
レンガ建築は大きく2種類に分類できます。一方は「デザイン重視」。建築家の設計で街中に建てられたもので、デザインそのものに意味が込められています。もう一方は「機能重視」。港にある倉庫や軍事目的で作られた工場など、当時の実用的な役割を果たすために建てられたものです。大阪では中之島・北船場エリアに「デザイン重視」のレンガ建築が建てられ、水都と呼ばれ栄えていた大阪港エリアと天満エリアに壮大なスケールを誇る「機能重視」のレンガ建築が多く残っています。中心地からすぐの場所でそれらに触れられるのも大阪ならでは!
レンガ素材の味わいに注目!
レンガは人類が古くから用いてきた素材。今でも職人のハンドメイドで、土や泥を固めてから焼いて作られています。一つ一つの焼きムラやごつごつとした素朴な形はどこか温かく、見ているだけでほっこりした気分に浸れるはず。赤・オレンジ・茶などバラエティ豊かな色合いも魅力で、積み方により模様も変化。レンガは建物の表情を作り、見る人の印象を決める大切な役割を担っています。
大阪を代表するレンガ建築【大阪市中央公会堂】
日本近代建築の巨匠が手がけた文化財
“西の公会堂”と“東の東京駅”と謳われるほど、日本の近代建築を語る上で欠かせない存在。中之島の水の蒼・木々の緑と調和した意匠が評価され、2002年には公会堂建築物としては西日本で初めて国の重要文化財に指定されました。デザインの特徴は半円のアーチ、左右対称形の優美な外観。手掛けたのは日本の近代建築のパイオニア・辰野金吾(たつのきんご)氏です。その功績は今なお語り継がれ、独自の意匠は“辰野式”と呼ばれ、注目を集めています。
公会堂を見れば辰野式の特徴は一目瞭然!赤レンガに白い御影石でラインを描くデザインで、そのコントラストがレンガの赤色をより一層引き立てます。また、屋根にドームやタワーのモチーフが並ぶのも辰野式ならでは。意匠におけるこだわりが光るのはステンドグラスが輝く正面のアーチ部分。美しく描かれた半円のカーブに見惚れること間違いなし!
屋根上にはローマ神話に登場する科学・工芸・平和の神『ミネルバ』と商いの神『メルキュール』の像を置いて、商工業で栄えた大阪を象徴しています。
さらにユニークなポイントは中と外の構造の違い。内側はレンガと鉄骨、鉄筋コンクリートの混構造で、外側の仕上げ材にはレンガタイルを使用。レンガタイルは通常のレンガとは違って光沢感があり、スタイリッシュな風合いが光ります。レンガの短い方の面である「小口」のみで統一されたデザインはレンガタイルだからこそなせる技。色の統一感も相まってより洗練された印象に。また、レンガの目地に目を凝らすと、少し盛り上がっていることに気づくはず。この細工によって目地に日光が当たりやすくなると同時に、乱反射が起こりその線は白く目に映え、レンガの色をより強調しています。赤と白のコントラストを活かした辰野式は、これほどまでに念入りに仕立てられているのです。
外観を満喫した後は地下1階の通路にある構造用のレンガもご覧あれ。レンガ素材の持つ色ムラやごつごつとした形状は素朴な雰囲気で、レンガタイルとはまた違った表情を楽しめます。大阪が誇る唯一無二のアート性に溢れたレトロレンガ建築「大阪市中央公会堂」。時代が移り変わっても、中之島の景観に調和しながら後世にも愛され続けていくでしょう。
★マニアさんのおすすめポイント★
大阪を代表するレトロレンガ建築で、構造材のレンガ×外装材のレンガタイルの組み合わせがユニーク!
★マニアさんのおすすめポイント★
大阪を代表するレトロレンガ建築で、構造材のレンガ×外装材のレンガタイルの組み合わせがユニーク!
[brick-building_01]店舗情報
古き良き赤レンガの洋館【オペラ・ドメーヌ高麗橋】
大阪・北船場エリアはレトロレンガ建築の宝庫
「高麗橋ビルディング」があるのは、数多くのレトロレンガ建築が残る大阪・北船場エリア。御堂筋と堺筋のちょうど真ん中を南北に渡る三休橋筋と高麗橋の交差点に位置しています。1912年(大正元年)に完成した同ビルは中央公会堂に似た雰囲気で、三休橋筋の北詰にあるランドマーク的存在。それもそのはずで、どちらも同じ建築家・辰野金吾氏が設計を担当したから。白い御影石でぐるりと帯を回す赤レンガの外観から、辰野式の意匠が感じられます。
建設当初は大阪教育生命保険の社屋として建てられ、戦後長らくは証券会社が入るように。時を経て、2002年には高級フレンチレストランが店を構え、内部を大きくリニューアル!白の大理石を基調に赤色や茶色のアンティーク家具が並ぶ様子は、古き良き洋館そのものです。正面玄関にある100年モノの色鮮やかなステンドグラスやシャンデリアも一見の価値あり。窓枠に照明を仕込むことで、夜の沿道の賑わいづくりにもひと役買っています。2021年6月末まではブライダル会場「オペラ・ドメーヌ高麗橋」として人気を博し、今後の使い方は未定だそう。
同ビルをはじめ歴史的な建築が並ぶ高麗橋の一角は、歴史・文化を活かした街づくりにより北船場を彩る中心地。日本近代建築界の巨匠が手がけた赤レンガの建物を今後どう再利用していくのか、その動向に注目が集まるばかり!赤レンガの温もりはいつの時代も街中に馴染む佇まいが魅力。きっとまた誰かの手で新しい命が吹き込まれ、北船場エリアの賑わいをリードし続けていくことでしょう。
★マニアさんのおすすめポイント★
中央公会堂と同じく辰野式の意匠が特徴で、赤レンガの柔らかい印象が街の景観に馴染んでいます。
★マニアさんのおすすめポイント★
中央公会堂と同じく辰野式の意匠が特徴で、赤レンガの柔らかい印象が街の景観に馴染んでいます。
[brick-building_02]店舗情報
見渡す限り赤レンガの壁【GLION MUSEUM】
大阪最大級のフォトスポット!100年の歴史ある赤レンガ倉庫へ
約100年の歴史を持つ「築港赤レンガ倉庫」をリノベーションした「ジーライオンミュージアム」。横浜や舞鶴など全国に残る赤レンガ倉庫に並び、観光やデートスポットにおすすめの複合施設です。施設内には、お宝級のクラシックカーが並ぶ博物館や、ステーキハウスとカフェなどバラエティ豊かな顔ぶれがスタンバイ。建設当初の雰囲気をそのままに、往年のロンドンやニューヨークのような街並みを演出しています。港沿いの開放的な空間が心地よく、夜にはライトアップも!一歩足を踏み入れれば、日本にいながら異国にトリップした感覚へと誘ってくれます。
築港赤レンガ倉庫の建設は1923年。元々は住友倉庫として水の都・大阪の貿易を支えていました。実用的に機能していた巨大な建築は、時代の変化とともにレトロな佇まいが注目されるように。特に2棟ある倉庫のうち、道路に面した北側の壁がカーブしている外観は同施設ならでは。赤レンガの壁と三角屋根が湾曲しながら連なり、他のレンガ倉庫にはない意匠を生み出しています。さらに、建物内部の赤レンガの壁や柱のほか、コンテナを運ぶための機械もあえて残し、建設当初の面影を感じられる工夫も見所の1つ。
1920年代以降の車種がずらりと並ぶ「クラシックカーミュージアム」にも注目を。レンガとクラシックカーの組み合わせが面白く、どちらも発祥はヨーロッパ。産業発展の道のりが同じせいか、お互いの持つ見た目の重厚感やレトロな雰囲気が絶妙にマッチ!映画『ゴッドファーザー』に登場したキャデラックや世界で336台しか製造していないトヨタ2000GTなど超レアなクラシックカーが並んでいます。
入口すぐ左手側には、ハワイの人気店「Hy’s Steak House」の姉妹店「AKARENGA STEAK HOUSE」や、カジュアルフレンチを楽しめるカフェレストラン「LA VIE 1923」もあるので要チェック。すべての場所がフォトスポットと言わんばかりに赤レンガ尽くしの「ジーライオンミュージアム」。SNSに投稿すれば「なに、ここ海外!?」と反応の良いリアクションがたくさんもらえるかも!?
★マニアさんのおすすめポイント★
横浜・舞鶴に並び、レンガの味わいを活かしながら施設を再利用した好例の1つ。
★マニアさんのおすすめポイント★
横浜・舞鶴に並び、レンガの味わいを活かしながら施設を再利用した好例の1つ。
[brick-building_03]店舗情報
由緒ある教会【日本基督教団大阪教会】
建築の意匠とレンガの素朴さで教会の役割を表現
キリスト教の禁止令がとけた翌年の1874年(明治7年)、現在の前身である「梅本町公会」として設立。現在の建物自体の竣工は1922年(大正11年)で、当時の先端技術として当時に取り入れた鉄骨レンガ造が今なお生きる登録有形文化財です。円形のアーチや小窓を散りばめ、重厚なレンガの壁を築く「ロマネスク様式」の意匠は、ゲストを包み込むような温かい雰囲気が魅力。牧師に話を伺うと「目に見えるものにではなく、聖書の言葉にこそ救いがあるとするプロテスタントらしさが、建物の簡素な意匠として表れています」とコメント。聖書の言葉に聴くことを大切にする忠実な姿勢が、実は建築のデザインにも表れているそう。
最大の特徴は装飾を削ぎ落としたシンプルなデザイン。十字架やステンドグラス、絵画など視覚に訴える装飾は数えるほどしかありません。この装飾を主張しない表現やレンガの素朴な印象は、聖書を通して語られる神の言葉に熱心に聴き入る信者の姿勢が表れているよう。信仰の空間であり信者同士が出会う場である教会の役割と、自然から作られたレンガの持つ温かさも絶妙にマッチ!
設計を担当したのはキリスト教の伝道にも努めた建築家であるウィリアム・メレル・ヴォーリズ氏。大丸心斎橋本店に加え、全国にある数多くのミッションスクールや教会も手がけ、各々の建物はヴォーリズ建築として語り継がれています。同教会でも彼のオリジナリティは出ていて、聖堂のレンガの柱がアーチ状になっているのはその際たる例。西洋建築の洗練された印象とともに、イエス・キリストの広く深い愛を表現しているそう。神の言葉を表す光が多く差し込むよう、窓に対する配慮にもヴォーリズらしい細やかさが息づいています。
眺める距離を変えると、レンガの表情が変わるのもポイントの1つ。近くで見ると、レンガの組み合わせが模様になっていることや、赤・茶・紫・黒などレンガの色ムラらにも気づくはず。格式高い空間なのにどこか親近感を持てるのは、きっとレンガの持つ温かさのおかげでしょう。足を運ぶタイミングは教会が最も輝く礼拝時間がおすすめ。事前申し込み不要で、参加者は礼拝後に建物を見学できるので、初めての方も気軽に参加してみて。
★マニアさんのおすすめポイント★
1カ所に留まって見るよりも、近づいたり、離れたりして、レンガの様々な表情を楽しんでみてください。
★マニアさんのおすすめポイント★
1カ所に留まって見るよりも、近づいたり、離れたりして、レンガの様々な表情を楽しんでみてください。
[brick-building_04]店舗情報
高さ8mのレンガの壁に圧巻【毛馬第一閘門】
文明の力と人々の想いが詰まった2つのレンガ建築に注目
淀川で大洪水が起きた明治時代に、新淀川の開削とともに造られた「毛馬第一閘門」(けまだいいちこうもん)。江戸時代に蔵屋敷が立ちんでいた大坂は、明治時代になっても多くの船が行き交う商いの街でした。そこで水位差のある淀川〜大川を移動するために“船のエレベーター”として利用されていたのが毛馬第一閘門です。現在の毛馬閘門は昭和にリニューアルされたもので、昔の閘門は淀川河川公園内に保存されています。
なんとその全長は約100m、両岸の高さは8m!圧巻のスケールに思わず息を飲むばかり。竣工は明治40年で完成には4〜5年の歳月を費やしたそう。市民の安全を守るために、大勢の人が1つひとつレンガを積み上げる様子を想像すると、目の前の景色はよりドラマチックに。当時にレンガを用いた文明の力や、人々の努力と想いの詰まった同施設が国の重要文化財に選ばれるのも頷けます。ちなみに、西側の門の方が壁は高いのでフォトスポットにおすすめ!コスプレイヤーがレンガの壁を背景に撮影会をすることもあるとか。
また、淀川河川公園内にあるレンガ造りの毛馬洗堰(あらいぜき)も注目スポット。大川を横断するように設けられ、水流をせきとめて川の水位・水量を調節していました。水位が高くなると、堰を洗うように水が流れることから“あらいぜき”の名称が付いたそう。当時は10門ありましたが現存するものは3つだけで、第一閘門と同じく国の重要文化財に認定されています。
毛馬第一閘門のある淀川河川公園は釣りやピクニックの名所としても大人気!足を運んだ際には第一閘門と洗堰も合わせてチェックを。
★マニアさんのおすすめポイント★
第一閘門の両岸は高さ8mのレンガ造で、長大なレンガの壁が圧巻。
★マニアさんのおすすめポイント★
第一閘門の両岸は高さ8mのレンガ造で、長大なレンガの壁が圧巻。
[brick-building_05]店舗情報
【編集後記】
身体を動かして足を運び、眺めて想いを馳せ、そして考えてみると、建築はもっと楽しめます。歴史を知って背景が分かると、建物のデザインが持つ意味や当時の人々の思いが見えてくるでしょう。「重要文化財」という言葉はよく耳にしますが、なぜそれに選ばれているのかも納得がいくはずです。建築を見ることはまさにタイムトリップ!今までは何気なく見ていた場所もより面白く感じるようになるので、ぜひ見直して回ってみて。レンガ建築は明治から大正にかけての最先端。しっかりつくられているからこそ、今にも受け継がれ、レトロスポットとして注目を集めているのです。
身体を動かして足を運び、眺めて想いを馳せ、そして考えてみると、建築はもっと楽しめます。歴史を知って背景が分かると、建物のデザインが持つ意味や当時の人々の思いが見えてくるでしょう。「重要文化財」という言葉はよく耳にしますが、なぜそれに選ばれているのかも納得がいくはずです。建築を見ることはまさにタイムトリップ!今までは何気なく見ていた場所もより面白く感じるようになるので、ぜひ見直して回ってみて。レンガ建築は明治から大正にかけての最先端。しっかりつくられているからこそ、今にも受け継がれ、レトロスポットとして注目を集めているのです。
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毛馬第一閘門(けまだいいちこうもん)
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